JOURNALジャーナル

2024.07.30

靴づくり編10_LAST

今回はラスト(木型)について、設計の視点からお話したいと思います。

靴を作る際はラストを芯にしてアッパーをラスティング(吊り込み)し、靴底を付け、ラストを取り除くと足の入るスペースが確保されるというのが一般的な靴の作り方です。

靴づくり編10_LAST
靴づくり編10_LAST

靴のサイズやシルエットはラストで決まるので、モデル別、サイズ毎の物が使用されます。
この話は、全長・巻き寸・ヒールの高さ、の事から始めたいと思いますが、たびたび数字が出てきて少々煩わしい内容になりそうです。




全長
長さを計測しているところです

靴づくり編10_LAST

画像は、No.7965というドレスタイプのラストで、26サイズの靴を作るとき使用する物ですが、長さは26センチではなく29センチあります。
爪先部分に余裕を持たせている(この余裕分を捨て寸と言います)からですが、これが全くないと爪先が詰まって歩行に支障があります。(サッカーなどの競技用靴では、あえて捨て寸のないラストを使う場合もあるようです。)

捨て寸には、もちろん見た目の意味もあって、よりエレガントな靴を作りたい場合は、 より長めの(捨て寸が多い)ラストが選ばれる傾向があります。

一方ローファーっぽい靴には27.5センチ位のやや短い(捨て寸が少ない)物が使われるのが一般的です。 ローファーはその昔、上流階級の室内履きだったのだそうで、そんな背景もあってなのでしょうか?捨て寸の少ない方がしっくりきます。




巻き寸

靴づくり編10_LAST
靴づくり編10_LAST

甲周り(ボールガースと言われる位置の周り)の寸法を計測しているところです。

靴にEEやEEE等とワイズ表示してあるのをご覧になられた事があるかと思いますが、これはラストのボールガース寸法を人の足のボールガース寸法に変換後JIS基準に照らして表示したものです。

“変換“という部分なのですが、JIS規格は、人の足寸法の規格であって、ラスト寸法の規格とは違います。 足と同じ寸法のラストで靴を作るとぴったりと思われがちですが、実際は緩いと感じる靴になってしまいます。 ぴったりと感じる靴にするためには、足の肉付きを考慮しラスト寸法を足よりも少し小さくする必要があります(巻き寸に関して)。
この変換には一定のやり方があるわけではないのでメーカーの考え方によります。

Eは、E~EEEEまであってEが増えると、よりゆったりしている事を意味します。 Eより小さい方にはⅮという規格があり、EEEEより更に大きい方にはFがあります。 因みにJISではA~Gまでの規格が決められていますが、商品として出回っている靴のワイズはⅮ~Fの範囲だと思います。




ヒールの高さ

靴づくり編10_LAST

ラストはそのラストに何センチのヒールを付けるかが、設計段階で決まっています。

メンズのドレスシューズでは1.5センチ~3センチ位のヒールを付けるのが一般的ですが、1.5センチ設計のラストには1.5センチ。3センチ設計のラストには3センチのヒールを付けるのが基本です。
パンプスでは、これが8センチくらいの物までありますし、スニーカーでは0~1.5センチくらいが一般的でしょう。

設計の視点からは以上です。
以下、色々な靴種のラストを、ざっとご紹介しておきます。




エレガントなタイプ(右)とローファー(左)のラストを並べてみました。
因みに、部分的に灰色に見えるのは修正パテです。

靴づくり編10_LAST




靴になると

靴づくり編10_LAST




スニーカーのラストとそれで作った靴

靴づくり編10_LAST
靴づくり編10_LAST




ブーツ用

靴づくり編10_LAST

通常のものにくらべて、後半が太く、高くなっています。




パンプス

靴づくり編10_LAST

当社ではこの靴種を製造していないので、知り合いのモデリスト(ラストを設計する人)からお借りしました。




様々なトゥ

靴づくり編10_LAST

輪郭や肉付きなど、トゥのデザインは多様です。




心配した通り煩わしい内容になってしまいましたが、ラストが靴の機能や印象を左右する重要な工具である事をご理解いただければ満足です。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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